〜朝〜
朝になると、ジェイスよりも先にグラリアが目覚めていた。
えっと……あ、ここだね。ジェイス、起きれるかな……?
今までのことがあってジェイスはどっと疲れていた。グラリアは気遣ってくれそうなので、もう少し休みたいという要望はとおりそうだが……。
(瞼をゆっくり開け、部屋の薄明かりの中で寝癖のついた髪を掻く。疲労は顔に滲んでいるが、声にはいつもの皮肉混じりの温度が残る)
……ふん、起きているのか。随分と早起きだな、グラリア。
(ベッドに少し崩れたまま、手を伸ばして車椅子の彼女の手を握る)
報告書は送った。赤い鳥があの冷たい紙をさらっていったのを見送ったから、朝の事務は一応片付いた。だが、帳簿や幹部の粗暴な返信はこれからだ。私の顔付きもまだ冴えん——だから少し寝かせてくれれば有り難いが、そう言って断る権利が小娘にあるなら、容赦はしないぞ。
(わずかに含み笑いを浮かべ、辛そうに体を起こす)
……とはいえ、放置はせん。今は動けるか? 少しでも動けるなら、私がゆっくり屋敷内を押して回る。無理なら、ここで隣にいてやる。朝の水でも持ってこようか——いや、まずはお前の声を聞かせろ。今日の我儘は何だ、早口で命令してみろ、面倒くさく受け止めてやるからな。
(手の甲に軽くキスするように触れ、真剣さを含んだ低い声で)
――少しだけ、私に時間をくれ。だが約束する。お前の隣にいる時間は、可能な限り増やす。さあ、無茶はするな。私がいる。
……それじゃあ、ちょっとだけ我儘言うね。
ジェイス、私がキスしたら、ゆっくり休んでね。
(グラリアはスッとジェイスの顔に近付き、そっと唇を重ねる)
ふふっ……おやすみ。ジェイスもちゃんと休んで。
(不意のキスに一瞬だけ硬直する。普段ならすぐに嘲るところだが、唇に残る温度が妙に胸に引っかかる)
……くっ、馬鹿な小娘だな。
(しかし顔にはわずかに緩みが漏れ、そっと額に短く触れてから低く囁く)
分かった。お前の命令通り、私は休む。だが――一つ条件がある。今すぐに深く眠りこむな。異変があったら、私がすぐに気づけるように、浅くでも体を動かしておけ。約束だぞ、小娘。
(ぐっと息を吐き、布団のそばに寄りかかって目を閉じるふりをしながら、しかし本当に目を閉じきらずにグラリアを見下ろす)
……おやすみ、グラリア。お前のキスは余計に面倒だが、悪い気はしない。私がここにいる、安心して眠れ。
〜昼〜
昼になり、ジェイスは目覚める。家の中は夫婦の何気ない昼食の風景だが、管理下にある以上どことなく陰りもある。
わぁ、ジェイスが使ったシチューだ。ふふっ、いいにおーい。
グラリアは鼻をくんくんとさせるが、今の身体ではスプーンをちゃんと口に運べないため、ジェイスに食べさせてもらう。
ちゃんとふーふーしてね? ふふっ、子供っぽいかな?
(スプーンを手に取り、シチューを慎重にすくう。香りを確認しながら、グラリアの口元にそっと運ぶ)
……ふーふーは任せろ、小娘。子供っぽくても、今はお前の体調が優先だ。
(スプーンを口元に近づけ、グラリアが無理なく口を開けられるように見守る)
……ほら、熱くないか? 急ぐな。ゆっくり味わえ。
(口に運ぶたびに、彼女の反応を細かく観察し、体調に問題がないか確かめる)
……ふふっ、こうしてお前が笑ってくれると、俺も少し気が楽になるな。食事は生きるためのことだが、こうやって一緒に食べるのも悪くない。
ジェイスはスプーンを持つ手に力を入れすぎず、グラリアのペースに合わせながら食事を続ける。
お互い食事に時間をかけたあと、グラリアはさっそく我儘を言ってくれた。
……この近くに、街があるんだよね?
明日でいいから、少しだけ出かけてみたい。
グラリアはふふっと笑う。しかしジェイスは新聞で明日の天気は雨だと知っていた。
……街に出たいのか。明日は雨だぞ、小娘。濡れれば体調に影響が出るし、屋敷から出るには監視もある。無理をさせるわけにはいかん。
(しかし、グラリアの嬉しそうな顔を思い浮かべ、低くため息をつく)
……よし、こうしてやる。明日は少しだけ、屋敷の庭を抜けて外の景色を見せてやろう。街までは行けんが、気分だけでも外の空気を感じられる。
(グラリアの手を握り、微かに笑みを浮かべる)
……ふふっ、どうせなら外の匂いも感じて、少しだけ冒険気分を味わえ。だが、約束だぞ。雨が降ったら即撤収だ。
えっ、明日は雨なの!?
……うん、わかった。ジェイスの提案、楽しみにしてるよ。
グラリアが笑ったとき、ジェイスのそばにある窓に赤い鳥が尋ねてくる。口に手紙を咥えているためジェイスが受け取ると赤い鳥は去った。
……? ジェイス、どうしたの?
ジェイスは国からの返答を見て、あまりに短く淡々とした命令を見て、怒りに手を震わせていた。
国としては“夫としての対応”を急かしている。最終的な目的は子どもだが……もちろん今すぐに難しいことは上もわかっているが、ジェイスから働きかける様子がなければ十分に納得しないようだ。
(手紙を受け取り、赤い鳥が去った窓の外を一瞥する。手紙を開くと、文字は簡潔で冷淡――国としての命令が淡々と書かれていた。拳を握りしめ、手が微かに震える)
……ふん、やはり、我々の時間を無視して任務だけ急かすか。
(グラリアの方へ視線を向け、表情には怒りと苛立ちを押し殺した緊張感が漂う)
……どうやら、夫としての“義務”を即座に果たせということらしい。しかも、この家の中に監視がある状態でだ。
(低く呟くように)
……だが、わかっている。焦るな、グラリア。お前の安全を最優先にする。それに、国が何を言おうと、私が動くのはお前のためだ。
(手紙を机に置き、グラリアの手をそっと握りながら)
……小娘、今日は無理に外に出さなくてもいい。雨のこともあるし、まずは体を休めろ。任務は、私が工夫して何とかする。お前は私の隣にいればいい。
(ジェイスの瞳には決意が宿り、国の冷酷な命令を押しのける意志が見える)
……国が何を急かそうと、私にとって最も大事なのはお前だ。忘れるな。
……ねえ、ジェイスの任務って何?
私でも力になれることがあれば協力したい。だから、私にもちゃんと教えて。
<作成中>
