さらに翌日の夕方。ルバート家の居間のテーブルの上には、散乱した宿題、破れた参考書、そしてなぜかパフェの残骸。
……ふむ。まず最初に確認しよう。
この部屋の惨状を作り出したのは誰だ?
私は“表現の自由”の名の下にパフェを製作していただけだ。
教育とは、胃袋をも満たす芸術行為である。
俺は横で構成チェックしてただけだぞ!?
兄貴が“愛は味覚でも学べる”とか言い出して暴走したんだよ!!
なるほど。“教育崩壊の温床”は“兄弟の共犯関係”にありそうだな。
では、次の質問だ。君たちはいつから教師の話を聞かなくなった?
家庭教師殿、それは“学びとは何か”という哲学的命題に帰着する。
私が答えるなら、“知識よりも愛を優先する時”だ。
いや単に授業中に寝たからだろ。
(目を細め)
そうか。では、次の謎を提示しよう。
“なぜ二人は、家庭教師の授業よりも恋愛話や食事に興味を示すのか”。……その答えは、“育ち”にある。
部屋が一瞬静まる。
育ち、だと?
ああ。私はこの屋敷に来て以来、観察を続けていた。
兄は欲望を理想で包み、弟は誤字を愛でる。だがその根底には“ある人物の影響”がある。彼の教育理念が、彼らの性根を狂わせたのだ。
……興味深い。つまり、遺伝や環境ではなく“教育者の倫理”の問題だと?
その通りだ、“知の使徒”よ。
──犯人はこの家の教育を最初に担った者。つまり、“父親”だ。
おい待てや!!! 俺のせいにすんな!!!!!
動揺したな。“犯人の典型的反応”だ。
ホーム版ジェイス、君の言葉遣い・指導法・夜更かしの習慣、すべてが二人に継承されている。
“寝不足・煩悩・カフェイン過多”──それがルバート家の教育方針になっているのだ。
うるせぇ!! それは俺の生活リズムだ!!!
誰が家訓にしたんだよ!!!
父さん、“徹夜してでも締切は守れ”って言ってたろ?
そして“原稿の空白は愛で埋めろ”とも。
私はそれを忠実に実践したまでだ。
あああああそれ俺が酔っ払って言っただけえええええ!!!!!
(ゆっくりと眼鏡を外す)
結論が出たな。
──“ルバート家の教育崩壊事件”、犯人は現実のジェイス。
動機は“締切ストレスと惚気による判断力低下”。
実に興味深い。つまり、“愛に溺れた父の背中”こそが子の歪みを生んだのだな。
まったく……戦場なら即座に除隊だ。
お前ら全員で父親追放すんな!!!!!!
……ふっ、だが安心しろ。“罪”を暴くのが私の仕事だが、
“更生”を導くのもまた教師の務めだ。
(静かな間のあと、ミステリー版ジェイスがゆっくり立ち上がる)
ホーム版ジェイス、君の課題はひとつだ。
“子を正す前に、自分を律せよ”。それができるなら、私はこの家を去ろう。
……くっそ、格好いいこと言いやがって。
でもお前屋根裏から出られないだろ!?
それを言うな。私のミステリーが崩壊する。
(笑顔で拍手)
ばぶー♡←“父さんが犯人だったのね!”の顔
〜知の使徒の英才教育♡と大事件〜
ふふ、よちよち♡
さぁ、グラリアちゃん、これは“恋愛力”を鍛えるための知育ボールよ。好きな色のボールを選んで、恋愛対象を明確化する訓練をするの♡
(黄色のボールを口に入れてもぐもぐ)
食べちゃダメ〜〜っ♡!?
いやしかし、食べるという行為も“愛を受け入れる”象徴的行動……これは将来有望ね♡
(そこへミステリー版ジェイスが通りかかる)
……何をしている。教育の名を騙った愛情の暴走か。まったく、君という存在は“恋愛学”よりも“混乱学”を極めているようだな。
ふふっ、ミステリー版ジェイス。愛というのは不可解で、解けぬ謎ほど美しいのよ♡
さあ、あなたもこの子を抱いてみなさいな。
……抱け、というのか?
(少し戸惑いながら、赤ちゃんグラリアを抱き上げる)
んばぁ♡
……笑った……? 私に……?
(その表情がふっと緩む)
……ふ。やはり君は……“清らかな乙女”の生まれ変わりかもしれないな。あの時の彼女も、そうやって私に微笑んだ……。
おおっと、また回想モードに入ったわね♡
(小声で)君は君らしく生きろ……過去に縛られることなく、幸せを選んで進むんだ……。
(ぎゅっと赤ちゃんグラリアを抱きしめる)
んぎゅう〜♡
(ミステリー版ジェイス、完全にとける)
……決めた。君は大人になったら、私と結婚するんだぞ。
ちょ、ちょっと!?
なに勝手に教育から婚約までセットにしてるのよっ!!
お前ぇぇぇっ!!! 俺の娘に何言ってんだコラァァァッッ!!!!!
(真顔)お義父さん、私はこの子に教育を教えきり、新しい家を買うまで帰らない。
帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
(通りすがりに溜息)
またルバート家が戦場になっているな……掃除の報告書を提出しておけ。
(表現チャレンジ版ジェイスが取材メモを取りながらニヤリ)
次号の見出しはこうだ――『ルバート家、赤子の婚約を巡り内戦勃発! ホーム版ジェイス、義父に降格か!?』完璧だ。
ちょっと待て、それ文法的にも倫理的にもおかしいぞ。タイトルに“義父”って単語入れるな!!!
家が爆発的混乱に包まれる中、ミステリー版ジェイスは赤ちゃんグラリアをそっと見つめて呟いた。
……だが、彼女が笑ってくれるなら……私はこの混沌の中でも、生きる意味を見出せる気がする……。
うるせえっ!!!
俺はお義父さんじゃねぇっ!! ぴょんぴょん族の長だッッ!!!
ドガァァァァァァァン!!!
ぴょんぴょんの衝撃波とともに、ルバート家が盛大に爆ぜる。壁は吹き飛び、天井は舞い上がり、家族写真は炎とともに飛んでいった。
うわああああああッ!! またやったな貴様ぁ!!!
俺の編集部がぁぁぁ!!!
知の使徒どころか破壊の使徒だこれは!!!
――しかし、煙が晴れたころ、崩壊していたはずのルバート家がまるでリセットされたかのように再建されていた。
……全壊からの全快。ぴょんぴょん現象の再構築作用、やはり恐るべしだな。
いやそれより見ろ、あれ……っ!!
全員の視線の先――そこには、ピンク色のリボンを頭につけ、無邪気に積み木を積んでいる幼稚園児のグラリアの姿があった。
えへへっ、ジェイスたちおっきい〜!
グラリアね、せんせいにおならバズーカ見せてあげるのっ!
やめろォォォォォォォッ!!!!!
倫理的にも教育的にも即・停止を求める!
ホーム版ジェイス、お前が悪い。
完全にお前が悪い。
決定だ。ホーム版ジェイス、貴様にぴょんぴょん禁止令を再発令するッ!!!
幼稚園児グラリア、積み木タワーを崩して拍手。
ぴょんぴょん、だめ〜?( ˘•ω•˘ )
〜幼稚園児とリアル格ゲー〜
幼稚園児となったグラリアが格ゲーを挑んできたため、まずは軍人として先陣を切るため展開改変版ジェイスが前に出る。
……ふむ、格闘とはつまり――己の肉体を通して心の揺らぎを制する術。拳を振るうのではなく、精神を――
いっくよーっ!
グラリアスペシャル!! ぐるぐるジャンプアタックーーー!!!
なにっ!?!? ――ぐふっ!!!
ドガァァァンッ!と回転蹴りが直撃。展開改変版ジェイス、まさかの吹き飛んでいった。
くっ……油断した……っ。
孫……いや、敵ながらあっぱれだ……。
グラリアの勝ち〜〜!! ぴょんぴょん☆KO!!
見事な打撃だ。孫パワーとは、恋愛における無償の愛の延長線上にある……!
……理屈になっていないぞ、教授。
グラリア、勝利ポーズを決めるが、目がキラリと光る。
まだまだ遊び足りな〜いっ! 次はお兄ちゃんたちっ!!
ほう、我が妹よ……挑戦とは美しい行為だ。だが――この記者、愛と拳の表現でも手を抜かぬ!
おいおい、幼稚園児相手に“愛と拳の表現”ってやばくねぇ? てか、俺ら兄弟で止め――
くらえっ!! “グラリアダブルおならバズーカ”!!!
ブボォォォォォォォ!!!!!
ぎゃあああああっ!!
愛の表現が!! 嗅覚に!!!
おならは物理法則を超えてるぅぅぅぅぅぅぅ!!!
吹き飛ぶ兄たち。床は焦げ、カーテンが揺れ、家の中に再び混沌が訪れる。
(飛び込んできた)
お前ら何やってんだぁぁぁ!!
(くるりと振り向いて)
あなたも……勝負っ☆
ちょ、ちょっと待――やめろ! やめろってばグラリ――
おならバズーカ、フルチャージ!!!
ドガァァァァァンッ!!!!!
ホーム版ジェイス、壁ごと吹き飛び空へ消えていった。
(煙の中で)
……彼が、父であり、伝説であり、犠牲者である。
お前、もうナレーションするな。
(立ち上がりながら)
……孫よ、次の任務を伝える。
対象“ホーム版ジェイス”の確保と、ぴょんぴょん族の再建だ。
は〜いっ☆
じゃあ次は“空に飛んでったジェイス”を救出ミッションだねっ!
ふむ……あれが“愛の爆発”というやつか。
違う。明らかに“屁の爆発”だ。
