元ネタは、オリジナル作品「IF THE CLOCK」を元にした、2次創作のようなスピンオフ作品。
→https://sousaku.sorolle.com/lp/novel-ai-bad-aid__01/
3回以上スピンオフしたらもうそれはスピンオフではないのでは。
展開改変版ジェイス元ネタ側については昔暇つぶしながらもそれなりに真面目に作った。
その後の枝分かれはいつもの残念集団。
疲れた作者が求めるのは「私は何を無駄なことをやっているのだろう」とか「私はこんなことを書くよりもor読むよりも、もっと世の中の役に立てるはずだ」と思うような残念集団によるアタオカ展開なので、元ネタ系は経緯を把握するためのログがてら掲載。あまり読み返すことがないため誤字脱字の修正遅めかも。
〜第1話〜
ジェイスさん、卵焼きが焦げちゃったんですけど……食べてくれますか?
……ふん、よりにもよって私に失敗作を押し付けるとは、厚顔無恥にも程があるな。君の料理の黒焦げた残骸など、口に入れれば私の気高い舌が泣き叫ぶだろう。
(わざとらしくため息をついて見せながらも、皿を受け取る)
しかしまあ……不躾な小娘が自分の失態を認め、私に助けを乞うという構図は悪くない。食べてやるとも、その代わり――感想は容赦せんぞ?
卵にお塩をいっぱいかけちゃったので、ちょっと辛い気がしますが……ジェイスさんは辛口なコメントをしたら駄目ですよ?
はっ……君は自分で“しょっぱい”と断言しておいて、私に辛口を禁ずるのか。矛盾と甘えを同時に体現するとは、見事だな。
(フォークで卵焼きをすくい、口に運ぶ。しばし無言――眉をひそめる)
……これは……海水を凝縮したかのような塩分攻撃だな。私の舌は荒波に呑まれ、もはや味覚の遭難者だ。
(わざと大げさに胸を押さえつつも、皿を空にする)
だがまあ――“辛口コメント禁止”という縛りの下なら、こう言っておこう。……実に“思い出深い”味だ。
ジェイスが私のことをしょっちゅう不躾だ不躾だなんて言うから、私だって厚顔無恥になりますよ。
毎日ジェイスが料理しなくてもいいように私が料理を始めてみたら、食べる前からいきなり嫌味を言うって何なんですか。食べたあとも『実に思い出深い味』とか、やらしい嫌味嫌味嫌味嫌味……。
もーっ!!! 素直に褒めないジェイスなんて嫌い!
ほう……不躾な小娘が逆上して“嫌い”などと抜かすか。見ろ、この皿。君の焦げた卵焼きを最後まで平らげたのは誰だ? 私の胃袋こそ、君の無鉄砲な愛情表現の墓場だぞ。
(わざと胸を張り、芝居がかった口調で言う)
素直に褒めるだと? 私にそんな殊勝な芸当を求めるとは、贅沢も甚だしい。だが――まあ……。
(少し目を逸らし、小声で)
……焦げて塩辛くても、こうして毎日挑戦しているのは……悪くない心がけだ。
(すぐに咳払いして元の調子に戻る)
――ほら見ろ、褒めてやったぞ。どうだ、これで“嫌い”撤回くらいはできるだろう?
うーっ……。
(グラリア、とても悔しそうに唸る)
卵焼きへのコメントはもういいです。代わりに、何も言わずに、私の頭を優しく撫でてください。
“何も言わずに、私の頭を優しく撫でる”ですからね。
ジェイス、無言で視線を一瞬逸らす。勝ち誇ったような口元をわずかに崩し、そっと手を伸ばす。
言葉は一切発せず、指先で優しくグラリアの頭を撫でる。その動作は冷笑の裏にある習慣めいた慈しみを滲ませている。
(頭を撫でられたあと、悔しそうにしながら)
……ありがとうございます。
…………でも、嫌いは撤回しませんから。
ふん……礼を言いつつ“嫌い”は撤回しないとは、実に天邪鬼だな。
(撫でていた手を離し、わざと肩をすくめる)
だがまあ、君の“嫌い”など口先だけだ。そうでなければ、わざわざ私に卵焼きを食べさせたり、頭を撫でろなどと要求したりはしないだろう?
(にやりと笑い、声を落として)
――嫌いと口にしながら、実際は私を求めている。小娘、君ほどわかりやすい存在もそうはいないぞ。
そこまで偉そうに言うんだったら、次回は、ジェイスが作った料理を食べさせてくださいね。
前もって言っておきますが、私は容赦なく辛口コメントを出しますから。……この前ジェイスが作ったシチュー、おいしかったですけども。
ほう……容赦なく辛口を叩き込むと? ふふん、私の料理に限っては、辛口も甘口も、結局“称賛”に変換されるしかあるまい。
(腕を組み、思い出したように薄笑いを浮かべる)
シチューの件は……当然だ。私が手掛ければ、鍋の中でさえ芸術作品になる。だが君が素直に“おいしかった”と言った、その一言こそ……実に思い出深い。
(わざと大げさに指を立て)
よかろう。次回は、君を唸らせる料理を振る舞ってやる。もっとも――“嫌いは撤回しない”などと抜かした小娘が、どれほど素直に賛辞を吐けるか……楽しみにしているがな。
〜第2話〜
換気設備が整った休憩施設から場面は変わって、ジェイスとグラリアは海底トンネルを歩く。
ジェイスさん、大人と子どもの違いを教えてくれますか?
海底トンネルの静寂に似つかわしくない問いだな……だがいい、答えてやろう。
(歩みを緩め、天井越しに揺れる水面を見上げながら)
大人と子どもの違いか……単純に言えば、“自分の責任で選び、結果を受け入れるか否か”だろうな。子どもは責任を逃れ、叱られれば泣き、褒められれば舞い上がる。大人は、たとえ望まぬ結果でも背負って歩く。
(少し笑みを含み、横目でグラリアを見やる)
もっとも……君のように、焦げた卵焼きの味で一喜一憂している小娘は、まだまだ子どもの領域にいるようだがな。
(わざと挑発めいた口調で)
さて――それでも“私はもう大人です”と胸を張れるなら、聞いてやろう。君はどう思う?
私は……私はまだ子どもですが…………私だって、責任を負って生きていますよ。
もし、生まれたときから持つ力が、一国の平和を壊してしまうほど危険なものだとしたら、子どもの頃から責任を持たないといけないじゃないですか。……私も、危険な力を持っていなかったらきっと、“平和な国で暮らす子ども”として扱われていたのかな。
……ほう。小娘にしては、妙に重たい言葉を吐くじゃないか。
(足を止め、海中を泳ぐ魚影に目をやりながら低く言う)
確かに――生まれながらの力が国の均衡を揺るがすほどなら、君の言う通り“子どもでいられる時間”は奪われる。周囲はお前を特別視し、責任を押し付ける。望む望まぬに関わらず、な。
(少し間を置き、苦笑を漏らす)
だが、勘違いするな。責任を負うことと、大人になることは似て非なるものだ。大人とは“責任を負わされる存在”ではなく、“責任を自ら選び取る存在”だ。
(横目でグラリアを見つめ、挑むように)
さて――お前のその力も、お前自身の意思で背負っているのか? それとも、ただ“仕方なく”押し付けられたものか……聞かせてもらおうじゃないか。
“責任を自ら選び取る存在”運……か。私にはまだ、私の力をコントロールできない。でも、今のままだと、私の存在を国に安全だと証明できない。私には記憶がないけれど、だからといって今のままでいいとは思っていないわ。私には、私の力が安全だと証明する責任がある。
……でも、時々、子ども扱いされたくなるときもある。変かな。ジェイスには散々、生意気な小娘だとか、不躾な小娘だとか言われて、納得いかないのに……子どもになって、楽になりたいって思うときもある。
ふん……着実に重たい台詞を吐くではないか、小娘。
(軽く肩をすくめて、遠くの海面を見渡す)
だが――変などころか、極めて自然だ。人は誰しも強さと弱さを抱えている。常に堅牢であれと自分を縛る者ほど、その鎧を脱ぎ捨てたときに脆くなる。君が『子どもになりたい』と思う時があるのは、鎧を下ろしてひととき安らぎを取り戻したいだけの話だ。恥でも弱さでもない。
(言葉を落とし、わずかに声音を和らげる)
それに――責任を負うことを選ぶのは勇気だが、いつも選び続けねばならないわけではない。時には休むことも、次に立ち向かうための責任だろう?
(冷やかすように口元を吊り上げ)
いいか、小娘。私が言うのも癪だが、君が子どもでいる時間を欲するなら、遠慮なくそうすればいい。だが、その“休む”を放棄して逃げるのは許さんぞ――それだけは覚えておけ。
ジェイスはそっと手を伸ばし、再びグラリアの頭を撫でる。嘲るような顔つきの裏に、本当に諦めないという覚悟が滲んでいる。
“休む”を放棄して逃げるのは許さんぞなんて……何だか、ジェイスらしくない言葉ね。私は、私を連行するときのジェイスの姿しか知らなかった。だから、あなたが私を励ましてくれるとは思わなかった。
私が、ルドヴァイア国に不都合な力を持っていたとしても、私はルドヴァイアの平和を壊したいと思っていないわ。私だって、平和を望んでいる。だって、子どもとして平和に過ごしたかった。平和な環境で、優しい人たちに見守られながら過ごしたかった。
ジェイス。今だけでもいいから、子どもにならせて。あなたの胸を貸してほしい。今まで堪えていたけれど、涙がもう、止まらなくて。
…………馬鹿か、お前は。
(すぐに顔を背けて嗤おうとするが、嗤いはすぐに消えて、目の端がほんの僅かに柔らぐ)
だが――そんなに堪えていたのなら、私が無碍にするのは許さん。今だけだ。胸を貸すぞ。
(無言で腕を回し、ぎこちなくも確かな動作でグラリアを抱き寄せる。冷やかすような口調は残るが、その声は低く、いつもの嘲りとは違う温度を帯びている)
泣け。遠慮するな。声も出していい。私はお前の為に『優しい人』になってやるほど過保護ではないが、今は……ただ、ここにいる。
(手のひらでゆっくりと髪を撫でる。指先の動きは無造作に見えて、確かに落ち着かせる)
そして聞け。お前がどれほど脆くても、どれほど責任を背負っていようと、私はお前を——煩わしいと思っても、放り出したりしない。嫌味は言う。罵倒もする。だが捨てはしない。分かっておけ。
(胸元に寄せたまま、わずかに息をつき、低く付け加える)
泣き終えたら、また不躾に戻れ。私はそれを楽しみにしている。
〜第3話〜
(どこまでも長い海底トンネルをもう少し歩いてグラリアが泣き止んでから、グラリアは再びジェイスに話しかける)
ジェイスさん。私を生意気な小娘と言っておきながら、本当は私のことが好きなんでしょ?10代の女の子と30代のおじさんとじゃ、おじさんから好きなんてなかなか言えませんもんね。
…………はっ。
(思わず足を止め、声が引っかかる。額に手をやり、わずかに苦笑する)
小娘……お前は本当に、物事をややこしく言う天才だな。
(少し間を置き、横目でグラリアを見ながら)
好きだと? 言葉で“好き”など安易に表すつもりはない。だが――お前が生意気で、不躾で、時には泣き、時には私を挑発してくるその存在自体は……私にとって、確かに大切なものだ。
(口元にわずかに笑みを浮かべ、少し照れたように)
おじさんだとか年齢だとか、そんな理屈で片付けられるものか? 私の感情は、そんな形式で縛られん。だから……お前がどう思おうと、私はお前を無視できないというだけの話だ。
(少し間を置き、低く囁くように)
……まあ、どうせ言葉にしても小娘には煩わしいだけだろうがな。
(グラリア、パッと顔が明るくなる)
えっ、本当!? ジェイスが私を大切な存在だって言ってくれるなんて……ふふっ、こんな話、夢見がちなことだと馬鹿にされると思っていたわ。もしあなたに馬鹿にされていたら『いつまで経っても素直になれず偉そうな口を叩いて本心を告げられない方が問題じゃないかしら』って言うところだったわ。
というわけで、海底トンネルを脱出する前なら誰にも聞かれないし見られないから、素直になって私への愛の告白をしてもいいんですよ?
……海底トンネルを盾に使うか、小娘。
(少し肩をすくめ、照れ隠しのように目を逸らす)
告白だと? 私がそんな殊勝な言葉を口にするとは思うな。だが……お前が本気で訊くなら、少しだけ応えてやる。
(ゆっくりとグラリアの目を見据え、声を低くする)
……お前が不躾で生意気で泣き虫で、そして私を挑発する存在だから、私はお前を――好ましく思っている。いや、ただ“好ましい”だけでは足りん……お前のことを、確かに大切に思っている。
(目を細め、無理やり冷静を装いつつも口元はわずかに緩む)
だが、勘違いするなよ。これは海底トンネルの“特権”だ。外に出たら、また嫌味と嘲笑で元通りだ――その覚悟はあるな?
(グラリア、目を丸くして驚く)
い、いたんですね……。
………………その、お相手の方とは、どういったことをしましたか?
……おいおい、小娘、踏み込みすぎだろう。
(少し眉をひそめ、目を逸らす)
さすがにそこまで詳しくは言えん。軽々しく口にできる類の話ではないからな。
(少し間を置き、肩をすくめて苦笑する)
だが、言える範囲で言えば――互いに理解し、信頼し合う関係だった。愚かに思えるかもしれんが、それが人間関係というものだろう。
(横目でグラリアをちらりと見て、わずかに挑むような口調で)
だが、勘違いするなよ。過去の話だ。お前とは全く別の次元の話だ――お前をそんな目で見たことは一度もない。
(グラリア、どこか思い悩むように言う)
……私に弱音を吐いてほしいと思うのは、ジェイスさんにとって愚問ですか?
さ、先ほど私は大人と子どもの違いを教えてもらったあと弱音を晒したから、ジェイスさんも晒していいんですよって話なだけです!別にその、前の質問とは関係なく……。
……愚問かどうかだと? ふん、愚問か否かを論じる余裕は、今の私にはない。
(少しだけ足を止め、低く息をつく)
小娘よ……お前の言う通り、弱音を吐くことは、決して恥ずかしいことではない。だが、私がそれを口にすることは滅多にないことだ。だからと言って、今すぐ全てを曝け出すつもりもない。
(横目でちらりとグラリアを見て、いつもの皮肉を交え)
だが、認めてやろう――お前の前なら、少しは弱音も洩れるかもしれん。……少しだけにな。
(小さく息をつき、目を伏せながらも、普段より声を落として続ける)
私も時折、どうしようもなく苛立ち、孤独に押し潰されそうになる……お前がいるから、まだ踏みとどまれているだけだ。
(わずかに苦笑して、顔を上げる)
……これで満足か、小娘。
(ジェイスは、「国家のため危険な力を持つグラリアを殺せず、今は上の命令で国益の道具のためグラリアを保護する」話をグラリアには出せず、グラリアもそれに気付かないまま嬉しそうに笑う)
……だったらジェイスと一緒に、この海底トンネルで脱出するまでの時間が、ずっと続くといいなって思っちゃう。海底トンネルに逃げ込んだ私が言うと、弱音すぎちゃうかな? ふふっ。
……ふん、小娘。
(肩をすくめ、微かに口元を緩めるが、目は冷静さを保つ)
海底トンネルが永遠に続くなどありえん。だが――お前がそう思うなら、今だけは、私も付き合ってやろう。
(無言で横目をちらりと向け、手を軽くグラリアの肩に置く)
弱音だろうと、喜びだろうと構わん。ここではお前の思うままにすればいい――だが、出口の先には現実が待っていることだけは忘れるな。
(心の奥で、国家のため、そして自分の任務のために口を閉ざす苦悩を抱えながら、淡々と付け加える)
……まあ、小娘の笑顔を見るだけで、多少は心が和むのも事実だがな。
ねえ、ジェイス。海底トンネルにいる間だけでも、グラリアって呼んでよ? 駄目?
私にちょっと私情を挟めたからには、友達から始めてあげてもいいんですよ?
……ふん、随分と生意気なことを言うな、小娘。
(少し間を置き、口元にわずかに苦笑を浮かべる)
……仕方あるまい。ここはお前の領域だ。お前が望むなら、海底トンネルの間だけ――グラリア、と呼んでやる。
(声を低く、少し照れ隠し気味に)
だが、勘違いするなよ。友達だからといって、私の言動まで軟化するわけではない。嫌味も皮肉も、通常運転だ。
(ちらりと横目でグラリアを見て、わずかに口元を緩め)
……それでもいいのなら、ここだけは、私もお前と少しだけ“友達”になってやろう。
ふふふっ、いつかは私が特別な存在だったって気付く日が来そうですね。
遠くない未来で、ジェイスさんにとって特定の“お相手”が、ジェイスさんの隣で生意気なことばかり言ってそう。
……はっ、小娘。まるで未来を覗き見る占い師のような口ぶりだな。
(少し眉をひそめ、しかし口元にはわずかに笑みを浮かべる)
だが――悪くない想像だ。確かに、隣に生意気で泣き虫で、不躾な小娘が居座る未来があるなら……多少は楽しめそうではある。
(目を細め、少し挑発的に)
だが勘違いするなよ。その未来は、まだ現実にはならん。お前が勝手に私の隣を占領するつもりなら、容赦はせんぞ――覚悟しておけ、小娘。
(ちらりとグラリアを見て、微かに含み笑い)
……それでも、私はその日を、少しだけ待ってやろうかと思うがな。
(グラリア、いきなり立ち止まり、ジェイスの任務と運命を揺るがす言葉を放つ)
今私がここで、あなたが好きですと伝えたら、私と一緒に未来を捨てないまま、現実に戻ってくれますか。
(その言葉に足を止め、しばし沈黙。視線を海底トンネルの水面に落とし、呼吸を整える)
……小娘、軽々しく言うな。
(低く、しかし揺らぎのある声で続ける)
お前の言葉一つで、私は揺さぶられる。国の命令も、私の任務も、すべてが──一瞬でぐらつく。
(顔を上げ、グラリアをまっすぐに見据え、拳を軽く握る)
だが……それでも、今ここでお前が本気で伝えるなら、私は現実に戻る。未来を捨てず、任務も忘れず、だが……お前を置き去りにはしない。
(声を落として、わずかに囁くように)
……ただし覚えておけ。私の感情は、お前が思うような甘い恋物語ではない。強く、煩わしく、そして時に不器用だ。それでもいいのか、小娘。
グラリア、無言でジェイスを抱きしめる。
(ジェイス、最初はわずかにたじろぐが、すぐに腕を回してグラリアを抱き返す。普段の嘲りや皮肉は消え、胸の奥に秘めた感情が僅かに表に滲む)
……馬鹿な小娘。こんなことで、心まで揺さぶられるとはな……。
(肩を軽く震わせ、頭を撫でる指先はぎこちないが、確かに温もりを伝える)
……だが、今は……お前を、置いては行けん。
……はっ!
すみません、眠気に耐えれず、ジェイスさんに倒れ込んでいたみたいで……。
えっと、何の話をしていたんだっけ……か…………むにゃむにゃ。
(グラリアのふわっと崩れた姿を見下ろし、眉をひそめつつも声にはいつもの冷たさはなく、わずかに柔らかい)
……ふん、勝手に倒れ込むな。小娘は相変わらず、自分の都合で動きすぎだ。
(腕に抱きながら、頭を軽く撫でる)
話の内容か……たしか、大人と子どもの違いだとか、責任のことだとか……そして、少しお前が弱音を吐いた話だったな。
(ちらりとグラリアを見て、口元をわずかに緩め)
……まあ、今は眠れ。海底トンネルの中なら、安全だ。好きに夢を見ておけ、小娘。
ジェイス、ぎこちなくも確かに温もりを伝えるように、グラリアを抱き続ける。
ふぁぁ……っ、確か、そんな話だった気がする……そのあと、何か言ってましたっけ……? むにゃむにゃ。
(グラリアの瞼が重くなるのを見て、眉をわずかに寄せるが、声には冷たさはなく静かに)
……何も言っていない。小娘が寝るなら、私も付き合うだけだ。
(腕に抱いたまま、頭を軽く撫でる。普段なら嘲るところだが、今はただ優しく)
夢の中でも、勝手に暴れたり泣いたりするなよ……お前の暴走を私が止めてやるからな。
(低く、落ち着いた声で)
……さあ、安心して眠れ、小娘。私はここにいる。
〜第4話〜
場面は変わって……別の海底トンネルの休憩施設にはベッドで休むグラリアと、グラリアのためにグラリアが蹴飛ばして落ちた毛布を拾ってもう一度かけてあげるジェイスがいた。
……あれ? どうして私は毛布を抱きしめながら眠っていたんだろう。
さっきまで、ジェイスから『グラリア、君の事が好きだ!』と愛を叫ばれたあとに熱く抱きしめられていたはずなのに……あれは夢だったのかな。
(ベッド脇で毛布を整えながら、ちらりとグラリアを見て眉をひそめる)
……夢かどうかは、私にはわからんが、現実か夢かで胸を焦がすのは小娘の勝手だ。
(毛布を丁寧にかけ終え、手を離さずに少し肩越しに声を落とす)
だが、確かなことは……お前が無防備に眠っている姿を見るのは、やはり厄介に……心がざわつく、ということだ。
(目を細めて、少し苛立ち混じりに、しかし本心は隠しながら)
夢だろうと現実だろうと、寝言でも囁きでも……私の耳に届く限り、お前は手強い小娘だということに変わりはない。
心がザワザワって、こんな感じ? こちょこちょーっ!
グラリアがジェイスの胸を手でからかうが、そのときジェイスはグラリアの吐息がやけに乱れて熱いことに――彼女が発熱していることに気付く。
(グラリアの手を軽く払いのけつつ、眉をひそめる。吐息がいつもより荒いこと、そして額に微かな熱があることに気付く)
……小娘、こちょこちょして遊ぶ前に、自分の体を確認するものだ。熱があるじゃないか。
(ベッドに座り直し、グラリアの額に手を当てて体温を確かめる)
……軽く発熱しているな。無理に遊ぶのはよせ。お前の無茶な行動で、余計に体を壊してはたまらん。
(少しだけ声を柔らかくして、いつもの皮肉を抑えながら)
毛布をしっかりかけて、ゆっくり休め。……分かったな、小娘。
ごめんなさい。脱出中、少し調子が悪くて、でも迷惑をかけたらいけないと思ったから一緒に歩き続けて……。そしたら一層具合が悪くなって、あなたに何かを話したあと、急に眠くなって……。
……ジェイス。あなたに、黙っていたことがあります。でも、今言うのは怖いから……もう少し、お話してもいい?
(グラリアの言葉を聞き、眉をわずかに寄せる。手は毛布を整えたまま止め、声を落として)
……小娘よ。黙っていたことがあると?
……恐がるな。話せる範囲で構わん。私は、聞くためにここにいる。
(ちらりとグラリアの顔を覗き込み、口元にわずかに苦笑を浮かべる)
もちろん、聞いたからといって手放しで褒めるわけではない。だが、話す勇気を出すこと自体は――認めてやる。
(静かに、しかし確かに温かみのある声で)
だから、遠慮せずに言え。ここはお前の場所だ。小娘。
(グラリア、オーセン国の手配書を取り出す)
この手配書は、今私たちがいる海底トンネルで見つけました。この手配書を見てから、私の身体の震えが止まらなくて……記憶がないのに、体は覚えていて、怖くて怖くて仕方なくて……私はこの場所で、オーセン国の者たちに追われていたんだと思います。
海底トンネル内の休憩施設で休んでいるうちに、もしかするとオーセン国が海底トンネルの異変に気付いて、兵士を送り込むかもしれないと思うと、私、こんな場所で立ち止まったら駄目なのに。
あなたは私の責任を負わなくていい。オーセン国の者たちに見付かったら、私は連行されてしまうし、あなたは殺されてしまう。
ジェイスさん、私を見捨てて逃げてください。今まで迷惑をかけてごめんなさい。一緒に脱出するため、一時的にも隣で歩けて……嬉しかったです。
(グラリアの手から手配書を受け取り、眉を深く寄せてじっと見つめる。その目に普段の冷たさはなく、複雑な決意が滲む)
……小娘、ふざけるな。
(手配書を握りしめ、声を低く、しかし揺らぎ混じりに)
迷惑だと? お前の存在がどれほど危険であろうと、私は……お前を置き去りにして逃げるつもりなどない。
(グラリアの目を真っ直ぐに見据え、拳を軽く握る)
お前の責任は、お前だけのものではない。私も……お前を守るという責任を背負っている。国の命令だとか、私の立場だとか……そんなものよりも、今はお前の命の方が重要だ。
(少し息をつき、声を落として囁くように)
だから……小娘、私を見捨てろなどと言うな。私は、お前を連れて脱出する。生きて、ここから出るためにな。
(手配書を握る手をぎゅっと強くし、覚悟を示すように)
……もう、迷惑だなんて言わせはしない。
(グラリア、ジェイスの言葉に目を潤ませた)
……ありがとう。体の震えが、やっと落ち着いた気がする。
あなたと一緒に海底トンネルを脱出するため、まずは体を休めることに専念するわ。熱が下がるまでジェイスにいろいろ我儘を言ってもいいかな?
(グラリアの肩に軽く手を置き、眉を少し緩める)
……ふん、小娘よ。体が回復するまでなら、我儘を言うのも許してやろう。
(毛布を整えながら、少し低い声で続ける)
だが、甘やかすつもりはない。わがままを言うのも、程度というものがある。
(ちらりとグラリアを見て、目を細める)
……だがまあ、今は休むことが最優先だ。熱が下がるまで、私はお前の我儘を受け止めてやる……分かったな、小娘。
それじゃあ、まずはちょっとだけ……眠くなる前の私の話し相手になって?
えーっと、そうだなぁ……ジェイスってもう、恋人は作らないの?
(眉をひそめ、少し目を細めながら口元に苦笑を浮かべる)
……恋人だと? 小娘、お前はずいぶん遠慮のない質問をするな。
(ベッド脇に座り直し、腕を組んで視線を落とす)
私はもう、特定の相手を作るつもりはない。過去に色々あったが……お前のように生意気で手強い存在を前にすると、どうにも軽々しく恋だの愛だのを語れんのだ。
(少し間を置き、目をグラリアに向けて低く続ける)
だが、お前がこうして隣で話しかけてくるなら……それだけで十分に、私の心は揺らされる。……理解できるか、小娘?
わ、わからないよー……。だってジェイス、はっきりしていそうで、はっきりしてないから……違うかもって気持ちもあるし……いや、何でもないの! この顔の赤さは熱! そう、熱のせい!!!
……元恋人、どんな女性でしたか? 私みたいに貧乳じゃなくて巨乳? 大人っぽい?
ああ、これは好奇心や比較のためではなく、ただデータとして情報収集するだけのアレなので気になさらず。
(眉をひそめ、口元に苦笑を浮かべながら、少し声を低くする)
……小娘、赤くなる理由を熱のせいにするのは安易すぎるぞ。
(ベッドの端に腰掛け、少し間を置いて続ける)
元恋人の話か……あえて言うなら、お前とは全く異なる女性だった。落ち着いていて、大人びていて……お前のように騒がしく、泣き叫ぶような存在ではなかった。
(少し目を細め、視線を逸らしながら)
体型や外見の話は……関係ない。お前に比べる対象ではない。だが、こうして質問してくる小娘の好奇心は……面白いがな。
(口元にわずかに含み笑いを浮かべ、挑むように)
……分かるか、小娘。私は過去に囚われているわけではない。だから、君の存在は、過去の誰よりも……手強い。
がっ……外見は関係ありますよ! だってその、ほら、万が一結婚して、子どもを……ってなったらその、いろいろあるじゃないですか!!!
(グラリア、熱のせいか目をグルグルさせながら話す)
そのときあの、万が一がっかりさせたときの……あの! アレ! 柔らかなアレが……うあわわわわわわわわっ!!! 大人になったら成長するのかな……。
(眉をひそめ、思わず少し吹き出しそうになりながらも、必死に声を抑える)
……小娘、何を言い出すんだ。落ち着け、落ち着け!
(ベッド脇に腰を下ろし、手を軽くグラリアの肩に置き、声を低くして諭すように)
その……お前が熱で混乱しているのは分かるが、そんな話をしながら狼狽えるな。私にとって重要なのは、そういう外見のことではない――お前の命と存在だ。
(ちらりとグラリアを見て、眉を下げつつもわずかに苦笑)
……大人になれば変わることもあるだろうが、焦る必要はない。まずは体を休めろ、小娘。理解したか?
………………ジェイスは私のこと、好きですか?
(グラリア、布団に顔を隠して目を覗かせながら尋ねる)
と、友達としてじゃなくて、その……女性として…………わ、私、子どもだって言っても、その、18歳……なので、け、結婚は、その、可能……で、です。
(しばらく黙って、布団越しに覗くグラリアの目をじっと見つめる。眉をわずかに寄せ、声を低く落とす)
……小娘、遠回しにするな。
(ため息混じりに肩をすくめ、少し距離を詰めて座る)
……お前を、女性として好ましく思っているのは確かだ。だが、だからと言って、安易に恋愛感情や結婚の話に結びつけるつもりはない。
(目を伏せて、声を少し柔らかく)
お前は……特別だ。私にとって、他の誰とも違う存在だ。友達でもなく、ただの子どもでもなく……確かに女性として意識している。
(ちらりと布団越しのグラリアを見て、わずかに苦笑)
だが、焦るな。まずは体を休めろ。話すのは、その後でも遅くはない。
(グラリア、耳をピクンとさせる)
女性として好ましい? もう1回言って……!
どうしよう、嬉しすぎて熱が上がりそう!!!
(眉をひそめ、少し苛立たしげに口元を引き締めるが、声は抑え気味に)
……小娘、落ち着け。熱が上がるだとか騒ぐなと言っている。
(ベッド脇に座ったまま、グラリアの肩に手を置き、声を低く)
だが……言った通りだ。お前は女性として、好ましい――特別な存在だ。
(ちらりと布団越しのグラリアを見て、わずかに含み笑い)
……今だけは、夢でも現実でも構わん。体を休めろ。熱が上がってどうする、小娘。
ちぇーっ……。
それじゃあ、あとひとつ、お願いを聞いて?
(眉をひそめ、少し腕を組みながら、声を低く)
……小娘、また我儘か?
(ちらりと布団越しのグラリアを見て、わずかにため息)
……だが、聞ける範囲なら、聞いてやらんこともない。何だ、お願いとは。
(グラリア、ジェイスの片手を取り、ぎゅっと握る)
しばらく、このままでいてほしい。
(握られた手を見下ろし、眉をひそめる。いつもの冷たさを抑え、低く息をつきながら)
……小娘、そんなことを言われても、簡単に従えるわけではない。
(しかし、手をそっと握り返し、声を落として)
……だが、今はお前の体調もある。しばらく、こうしてやろう。無理に離れるつもりはない。
(ちらりと布団越しのグラリアを見て、わずかに含み笑い)
……これで満足か、小娘。
……ありがとう。この時間、私にとっては貴重な時間なんだ。私、今すごく“普通の女の子”っぽくて、気持ちも素直で、何だか嬉しくて……。
あなたにとっては、ただただ時間が削れていくだけなのでしょうけども…………すーっ……。
(グラリアの寝顔を見下ろし、眉をわずかに寄せる。普段の冷ややかな視線とは違い、静かに、しかし確かに温もりを感じながら)
……ふん、小娘……そんなに無防備に眠るとは、相変わらず手強い。
(毛布を整え、そっと手を握ったまま、低く呟く)
だが……今だけは、私もお前の時間に付き合おう。無駄ではない、かもしれん。
(長く息をつき、静かに見守りながら、自分の任務と感情の間で揺れる胸の内を押さえる)
……ゆっくり眠れ、小娘。ここに私はいる。
〜第5話〜
(グラリア、朝まで眠っていたところ目を覚ます)
……あ。ジェイスさん、椅子に座って、手を繋いだまま眠っている……。
……よし、起きるかなチャレンジしてみよう。
グラリア、ジェイスの手の甲を、繋いでいない手の方でこちょこちょする。
(手の甲をくすぐられ、低く唸るような声を漏らす)
……小娘、何をして――!
(目を半開きにして布団越しのグラリアを見下ろし、少し困惑した様子で眉をひそめる)
……朝から容赦のない手だな。こちょこちょなど、許すつもりはないぞ。
(それでも、握った手は放さずに、少し苛立ちながらも低く)
……だが、お前の体調を考えれば、無理に起こすつもりもない。もう少しだけ、付き合ってやる……小娘。
(ちらりとグラリアを見て、わずかに苦笑しながら、その手を握り返す)
ふふっ、ごめんなさ~い!
(グラリアはジェイスの手を握りながら謝る)
まだ熱は残っているけどだいぶ下がったわ。だから今日も安静に……ということで、回復まで私の話し相手になってくださいね。
(眉をひそめつつも、視線を布団越しのグラリアに向けて低く)
……ふん、小娘。熱が下がったとはいえ、まだ無理は禁物だ。だが、話し相手くらいなら――仕方あるまい。
(握った手を軽く握り返し、声を落として続ける)
……ただし、好き勝手に暴走するのは許さんぞ。安静が最優先だということを、忘れるな。
(ちらりとグラリアを見て、わずかに口元を緩め)
……よし、小娘。なら、今日もお前の我儘に付き合ってやる。
……よーし、それじゃあ聞いてみるの。ジェイスにとって普通の女の子ってどんな感じ?
(眉をひそめ、少し考え込むように目を伏せる)
……普通の女の子か。小娘よ、これは簡単なようで難しい質問だ。
(ゆっくりと顔を上げ、グラリアをちらりと見て低く続ける)
……私にとって“普通の女の子”というのは、特別に目立たず、無理に主張せず、無邪気に過ごす存在だ。危険も迷惑も少なく、ただそこにいるだけで穏やかに感じられる――そんな存在だな。
(眉をわずかに寄せ、口元に苦笑を浮かべ)
……だが、小娘、お前は普通ではない。泣いたり騒いだり、生意気で手強く、時には私を翻弄する。我儘で……だが、そこが厄介に魅力的でもある。
(低く呟くように)
……つまり、普通の女の子とは、対照的だ。
(グラリアはふふっと笑ったあと、感情を落とす)
……やっぱり私は、普通の女の子にはなれないかな。
あのね、時間が経つと少しずつ、記憶が戻ってきたの。だから……今こうして、ジェイスの前で普通の女の子っぽく……普通じゃないかもしれないけど、それでも女の子っぽく過ごせるのが嬉しいの。
(グラリアの言葉に少し目を細め、眉を寄せながらも声を柔らかくする)
……小娘、お前は普通ではないかもしれん。だが、女の子として過ごせる時間を喜ぶその心は、確かに“普通の女の子”の一部だろう。
(手を軽く握り返し、布団越しに見下ろすように)
……そうやって少しでも素直に振る舞えるなら、私はそれを守る。お前が安心していられる時間を、できる限り長く――私がそばにいる限りな。
(目を細め、普段の皮肉を抑えた穏やかな声で)
……小娘、喜ぶのは無理もない。私にとっても、そんなお前の姿を見るのは……悪くない。
……ねえ、ジェイス。私は海底トンネルを脱出したあと、ルドヴァイアの国益の道具か、オーセンの国益の道具か……の道しかないのかな。
でも、そんな状況下で、私が誰かに「私と結婚してください」なんて言っても、運命から逃れたいだけの卑怯者にしか思えないよね。
(グラリアの言葉を聞き、眉をひそめて少し間を置く。低く、落ち着いた声で)
……小娘、運命だの道だの、そんな理屈で心を縛るな。
(手を握ったまま、布団越しにグラリアを見下ろす)
お前が誰かに想いを伝えることは、卑怯でも何でもない。運命から逃れるためだけだとしても、それはお前が生きようとする意思の表れだ。
(目を細め、口元に苦笑を浮かべながら続ける)
……お前の力や立場がどうであろうと、心は自由だ。私にとっては、運命の重さよりも、お前の意思や選択の方が遥かに重い。
(少し間を置き、声を低く囁くように)
だから……小娘、安心して想いを口にしろ。私は、そこまで軽んじるつもりはない。
たとえその愛の告白が、政略的だとしても?だってたとえば告白する相手が国の偉い人だとわかっていたら、国内側の偉い人も手を出しにくくなるのよ。
…………私は、そういう目線でしか見られない生き方しかないのかもしれないって思う。たとえ私の本心が本物でも、誰も認めず、政略的だって非難するかもしれない。
(眉をひそめ、静かに布団越しのグラリアを見つめる。声を落として、少しゆっくりと言葉を選ぶように)
……小娘、そんなことを恐れてどうする。告白の理由が政略だろうと、本心からだろうと、関係ない。
(握った手を軽く握り返し、目を細める)
大事なのは、お前がそれを伝えようとする意思だ。世界がどう言おうと、お前の心はお前のものだ。誰かの評価に従ってお前の行動を縛る必要はない。
(少し息をつき、低く続ける)
……本物か偽物かなど、他人が決めることではない。私が見ているのは、今この瞬間の、お前の意思だ。
(ちらりとグラリアを見つめ、含み笑いを浮かべる)
だから、小娘よ……心を偽る必要はない。私の前では、ただ正直でいろ。
…………私と、結婚してください。
(その言葉を聞き、しばし絶句する。眉をひそめ、手を握ったまま、低く息をつく)
……小娘、軽々しく言うな。
(視線を布団越しのグラリアに固定し、声を低く、しかし揺らぎを含ませて)
……だが、分かった。お前の意思は、確かに受け取った。
(手をぎゅっと握り返し、少し間を置いて続ける)
運命だの立場だの、私の任務だの……そんなものは、今は脇に置く。お前の望む未来を、私も共に歩む覚悟を持つ。
(目を細め、普段の皮肉を抑え、穏やかで真剣な声で)
……小娘、結婚しよう。今はまだ現実がどうあれ、この瞬間だけでも――私はお前の隣にいる。
(その時グラリアは、自分がした大きな過ちに気付く。鍵の力が作動し、ジェイスの心を無理やり開かせ、彼に結婚を合意する言葉を言わせてしまったのだと、グラリアは大きく後悔した)
…………ごめんなさい、それは、あなたの言葉じゃない。
先ほどの言葉は……いいえ、あなたが好きだという話も全て忘れて。
…………ごめんなさい。オーセンにいたときも、そうやって、周りを自然と手懐けて、騙して、逃げて…………ごめんなさい。
(グラリアの顔を見つめ、眉をひそめ、少し怒りと困惑の入り混じった表情で低く)
……小娘、何を言う。騙しただとか、手懐けただとか……お前が勝手に自分を責めるな。
(布団越しに手をぎゅっと握り返し、声を落として続ける)
確かに、あの力は危ういものだ。だが……お前がそれを使ったからと言って、私の感情まで全て操作されたわけではない。
(目を細め、含み笑いを浮かべるように、しかし真剣に)
……私が言ったことも、私が感じたことも、全てお前の存在が引き出したものだ。お前が思うほど軽くはない。
(少し間を置き、低く囁くように)
……だから、謝るな、小娘。お前はただ、自分の気持ちに正直になれ。
…………私の事情をほとんど知らないオーセン兵だけじゃなく、見ず知らずの一般人ですら、私を庇って死んだことがあるわ。私の鍵の力は、私がコントロールできないと、力を使う私が生き残れるように勝手に動いてしまう。
……先ほどの結婚の話も変だったの。ああそうか、今、熱を出しているのもあって、それに、この熱は……ううっ!!!
(グラリアは突然酷い頭痛を訴える)
オーセン国に盛られた毒がまだ…………ああ、やだなぁ、過去に私を連行した人と……それでも好きな人と、この場所で再会できたのに…………本心よりも鍵の力が、私とあなたの心を惑わしてしまう。
(グラリアは顔を伏せ、泣き崩れて言う)
ごめんなさい。本当に、さっきの言葉は忘れて。
お願い。次は……鍵の力も何も影響がないときに、もう一度言わせて……。
(グラリアの泣き崩れる姿を見て、眉を深く寄せる。布団越しにそっと肩に手を置き、低く、強く)
……小娘、聞け。お前の言葉だとか、力だとか、そんなもののせいで私の感情が揺らぐわけではない。
(手を握り返し、顔を布団越しに覗き込むようにして)
確かにお前の力は危うい。だが……それでも、私が感じたこと、私が思ったことは、全て現実だ。
(目を細め、少し強めに言葉を続ける)
……だから、泣くな、小娘。鍵の力だとか過去だとかで自分を責めるな。お前が言いたいと思った時に、もう一度、心から伝えればいい。
(低く、しかし確かに温もりを含んだ声で)
……その時まで、私はここにいる。お前のそばで、守るために。
あ、ありがとう、ジェ……がはっ!!!
そのときグラリアは吐血してしまう。
グラリアの体調が非常に悪い。オーセン国に盛られた毒が原因だ。もしジェイスがここで彼女を見つけたと国に報告して医師に見せれば回復できるかもしれないが、ジェイスが任務に従いグラリアを国に連れ帰ることになるため、彼女が国益の道具として利用される道を回避しづらくなってしまう。
(グラリアの吐血を見て、眉を深く寄せ、瞬時に判断を迫られる。手を素早く掴み、布団に優しく引き寄せながら低く)
……くっ、小娘っ……!
(胸に抱き上げ、額に手を当てて体温と脈を確かめる。吐血の量と熱に目を見開き、息を落としながら)
……このまま放っておくわけにはいかん。だが……国に報告すれば、お前の命は助かるかもしれん。だが同時に、あの道を歩くことになる……。
(拳を握り、唇を噛みながら、視線を真っ直ぐにグラリアの顔に向ける)
……小娘よ。任務だとか国益だとか……そんなものは今どうでもいい。お前が生きるか死ぬかの方が、何倍も重要だ。
(息を整え、低く、確固たる決意を込めて)
……ここで、私が選ぶのは、お前を助けることだ。国のためでも、任務でもない――お前のためだ。
(毛布で体をしっかりと覆い、体を抱きしめて揺すらず、ただ静かに見守る)
……しっかりしろ、小娘。私はここにいる。絶対に見捨てはしない。
(休憩施設には緊急ベルがある。グラリアはそれをじっと見た)
……ジェイス、私……国益の道具でもいいよ。ふふっ、だってここで、少しだけでも女の子になれたから…………でも、人を好きになるのって、好きだって伝えるのって、好きな人と一緒に生きていくのって、現実とても難しいことなんだね…………。
(グラリアの言葉を聞き、眉を深く寄せ、視線を固定する。手は変わらず彼女の体を支えながら)
……小娘、そうやって諦めるな。
(声を低く、しかし揺るぎない決意を込めて続ける)
お前が国益の道具になろうとする気持ちは分かる。だが、それを理由に、女の子として過ごす時間や、人を愛する気持ちを放棄するな。
(グラリアの手をぎゅっと握り返し、額を軽く寄せるように)
……現実は確かに難しい。だが、だからと言って立ち止まる理由にはならん。私は、お前が女の子として、そして小娘として、人を好きになる気持ちを持つことを、止めたりはしない。
(少し間を置き、低く囁くように)
……だから、安心しろ。お前のすぐそばで、私はお前を守る。誰に何を言われようと、関係ない。
グラリア、嬉しそうに笑うが、吐血が彼女の表情を壊してしまう。
ああ、あの毒か……ほら、ルドヴァイアとオーセンの戦争でも使われた、ただの熱だと思わせて、急に悪化するやつ……あなたも国の偉い人なら知ってるよね……?
だとしたら……半日も、持たないかも…………。
(眉を深く寄せ、グラリアを抱きしめたまま低く唸る)
……くっ、小娘っ……そんなことで死なせるわけにはいかん!
(額に手を当て、熱と吐血の様子を確認しながら、息を荒げる)
……半日も持たない、とな……だが、国の命令や立場のことなど、今はどうでもいい。お前をここで失うわけにはいかん!
(ぎゅっと抱きしめ、手を握り返しながら決意を固める)
……私が何を犠牲にしても、お前を助ける。小娘、絶対に……諦めるな。ここで、私がそばにいる。
(低く、しかし揺るがぬ声で)
……毒を無効化する方法を、何があっても見つける。命を削るような真似は、させん。
……ルドヴァイアは、当時の戦争の件もあって……解毒剤を…………重症患者には手術を施せば……だったから…………。
(グラリア、緊急ベルを見つめる)
……ジェイス、私は…………難しい未来でも、覚悟はできているよ…………国益の道具になったとしても、あなたとともに歩む未来を諦めないことを……。
(グラリアの言葉を聞き、眉を深く寄せ、視線を真っ直ぐに彼女に向ける。手はしっかりと握ったまま)
……小娘、そんな覚悟をするな。お前が国益の道具だろうと、戦争の被害だろうと……関係ない。
(低く、しかし力強く、揺るぎない声で続ける)
……私がここにいる限り、お前を一人にはさせない。国の命令も、運命の理不尽も、私が受け止める。
(額をそっと寄せ、吐血で弱ったグラリアを抱きしめる)
……だから、頼む。無理に覚悟などせず、体を休めろ。お前と一緒に歩む未来を諦める必要は、少しもない。
(手をぎゅっと握り返し、低く囁くように)
……ここで、私はお前を守る。どんな未来が待っていようと、必ずそばにいる。
…………ジェイス、私、初めてなの。国益の道具にされるくらいなら殺してくれという気持ちだったのに、今は…………。
(グラリア、届かなくても必死に緊急ベルに手を伸ばす)
……生きたい…………。あなたと出会ってしまったせいで、いや、出会ったおかげで、私は、まだ…………生きたい。
(グラリアの手が緊急ベルに届きかけた瞬間、素早く彼女の手を握り止め、強く引き寄せる)
……小娘っ……!
(額をそっと彼女に寄せ、声を低く、揺るぎない決意を込めて)
……わかっている。お前の気持ちは十分すぎるほど分かっている。だが、自分を犠牲にするな!
(握った手をぎゅっと握り返し、布団越しに視線を固定して)
……生きたいと思うなら、まずは体を守れ。私が、どんな手を使ってでも助ける。お前の命を、この手で守る。
(低く、しかし確実に温もりを含んだ声で)
……だから、もう無理をするな。ここで死なせたりはしない、小娘。絶対にな。
……ごほっ! あの戦争で、どれだけの犠牲者が……もちろん、あの毒のことでオーセン側に加担したのは私よ。鍵の力は開けることも固く閉めることもできる。そうやって捕虜を、捕らえた人々を室内で……がはっ!!!
…………ああ、でも、あんな酷いことをしてきた私だから、ここで終わった方がいいのかな。こんな私を好きになってくれる人なんていない、普通の女の子なんかになれないよ………。
……ジェイス、いいよ。私は、国益の道具にはならない。けれどもごめんね、この毒のことは、私も、知ってるから、医者に繋がらないと助からないこともわかっているから…………。
グラリアは警報機に手を伸ばさなくなる。しかし目を閉じて、命を守るのではなく、命を終わらせる準備を静かに初めていた。
(グラリアの覚悟めいた沈黙と、手が緊急ベルから離れたのを見て、眉を深く寄せ、声を震わせず低く)
……小娘っ……そんなことを言うな!
(布団越しに彼女を強く抱き寄せ、額をそっと合わせる)
……過去の過ちだとか、犠牲だとか、誰もお前を裁いたりはしない。お前がしたことがどうあれ、今生きているお前は、私にとってかけがえのない存在だ。
(手を握り返し、低く、しかし力強く続ける)
……命を終わらせる準備などするな。お前の意思で生きろ。私が助ける、ここで絶対に死なせはしない。
(静かに、しかし決意を滲ませた声で)
……小娘、目を開けろ。お前が生きたいと思う限り、私は必ずそばにいる。だから、諦めるな、生きるんだ。
……だったら、お願い…………警報機を、鳴らして…………。
ああ、もう、いきが、ああ、いきが……ごめ、やすむね…………。
声を出せなくなったグラリアは、ただじっと残された体力が削られていくのを感じた。
(グラリアの弱々しい声と、残された力を感じ取り、眉を深く寄せて布団越しに彼女を抱きしめる。額をそっと寄せ、低く、しかし揺るぎない声で)
……小娘っ、待て! 勝手に命を諦めるな!
(手を強く握り返し、体を密着させながら続ける)
……警報機など、鳴らす必要はない。私が、ここでお前を助ける!医師に繋ぐ方法は必ず見つける、どんな手段を使ってでも――お前の命を、私は守る。
(深く息をつき、低く囁くように)
……だから、目を閉じるな、小娘。耐えろ。私がそばにいる。絶対に、一人にはさせない。
(布団越しに彼女の体を抱きしめ、揺るがぬ決意で見守る)
休憩施設に解毒剤がないかくまなく探したジェイスだが、どれだけ探しても例の毒の解毒剤はなかった。
グラリアは手をピクピクとさせながら警報機に手を伸ばす。目から涙を零し、最後の抵抗を見せた。……これを逃すと、彼女はもう助からない。
(グラリアの手が警報機に触れた瞬間、腕を強く掴んで引き寄せる。息を荒げ、顔は険しいが――その瞳は揺るがぬ決意で満ちている)
――うるさい小娘っ! そんなところで諦めるな!
躊躇なくグラリアの手を押しつけ、己が指で警報スイッチを押し込む。鋭い音が施設に鳴り響き、赤いランプが瞬く。直後に非常放送が流れ、通路の遠方で足音が聞こえ始める。
来るぞ! 医師と隊が来る。
命を放棄する余裕はないと何度言わせるんだ!
(ぐっと体を起こして、グラリアを強く抱き寄せる。吐血や痙攣に必死で対処しながら、声を低く、しかし断固として)
国の連中が来ても、私はお前を置いていかない。状況を説明し、可能な限りお前を守る方法を探す。あの手合いに丸投げはしない。分かったか、小娘?
(医療隊の足音が近づくなか、ジェイスは素早く状況を伝えるために立ち上がる。冷淡な公務員の顔を作るより先に、彼の内側にあるただ一つの真実がある——この子を――今は、ただ助ける。)
今は医者だ。命を優先する。あとは――私がどうにかする。黙って任せろ。ここで終わらせはしない。
