プロローグ【打倒クソゲー編】

ドジっ子ちゃん視点

えへへ、これから始まるお話のプロローグだよ〜(私、ちょっと緊張してるけど頑張るね!)

私、ドジっ子ちゃん。㈱D02I(ドゼロにアイ)で事務をしてる新入社員だよ。面接のときに「カブシキカイシャドゼロにアイって読むんです〜」って指摘したら、人事さんに「やる気があるね!」って褒められて、それから社内でちょっと期待されてるの。うふふ、でも期待されると余計にドジっちゃうのが私の悪い癖で……てへっ。

今日は出社してすぐお茶汲み当番。お茶ポットをカウンターに置いて、ニコニコしながら皆に配ってたんだ。でもね、どこでどう間違えたのか、ひとつだけ激辛味になってるカップを渡しちゃって。最初に飲んだのは、ドジーくん。普段は落ち着いてて、なんでも冷静に対処する彼だけど、激辛お茶を一口すすった瞬間の顔は漫画みたいに真っ赤で、思わず私も爆笑しちゃった。ごめんね、ごめんねって謝ったら、ドジーくんは「申し訳ありません、また手違いが生じてしまいました」とか言って、真面目に頭を下げてたよ。……でもそのあと小さく「大丈夫?」って心配そうに私を見てくれて、私、ちょっとドキッとしたんだ。えへへ。

その隣では、ドゥーくん(魔王ドゥージルド様って名乗ってるんだけど、登録で「性別:女」ってなっちゃってるの)が受付の置物みたいに座ってた。黒いコートにちょっと偉そうな雰囲気で、年齢は「4000歳」って言ってるんだけど、本人もよく覚えてないみたい。いつもは威厳たっぷりなんだけど、今日はまたやらかしたみたいで、コピー機の上に魔力(たぶん)をかけちゃって、コピー用紙がふわ〜って舞ってオフィス中が白い雪みたいになったの。書類が宙を舞って社員全員が手を伸ばしてる中、ドゥーくんは「フフ……また一つ、我が計画に小さき誤算が生じてしまったようだ」って言って、恥ずかしそうに笑ってたの。魔王様が恥ずかしがるの、ちょっと可愛いよね。てへっ。

私はというと、ファイルを机に置こうとしてゴソゴソしてたら、うっかり大事な書類の束を床にぶちまけちゃって、ページがみんなバラバラに! 慌てて拾ってたら、誰かのペンがポンって転がって、会議室の中にすっ飛んでいったの。ドジーくんが「ここにペンが見当たりませんが、私が管理していたはずです」と言って探してくれたんだけど、結局会議室の奥からはドゥーくんの魔法で現れた猫(?)がペンをおもちゃだと思って咥えて出てきて、みんなで大笑い。もう、なんでこうなるのかなぁ……私のせいかな?っていつも思うけど、誰も怒らないで一緒に笑ってくれる職場ってちょっと好き。

そんなバタバタの最中に、社内の空気がピリッと引き締まった。外から来た新しい上司――他の大手企業から引き抜かれてきたって噂の、ちょっと怖くて頼れる雰囲気の人がオフィスに入ってきたの。皆、一瞬で背筋を伸ばして「おはようございます」って挨拶。私も慌てて髪を直して、にっこり笑ったんだけど、まだ机の上にはお茶のシミが残ってるし、書類は床に散らばってるし、ドゥーくんは足元で小さな火花をちらしてるし——まあ、普通にカオス。

新しい上司はゆっくりと周りを見渡して、そして私の方をじっと見たの。ちょっとだけ驚いた顔をしてから、硬い声で「ここが…D02Iか」と言った。その声だけで、なんだか世界が少し静かになった気がしたよ。私はとっさに「えへへ、すみません!」って笑って、またペンを拾って差し出した。上司は微かに眉を上げて、それから不思議そうに、でも優しく「大丈夫か?」って聞いてくれたんだ。

その瞬間、私の胸がキュンと鳴ったの。あ、これから色々あるなって。ドジがいっぱい、笑いがいっぱい、ちょっとだけドキドキも混ざった毎日が始まる予感。新しい上司はきっと、私たちのことをどうにかしてくれる人――それとも、もっと混乱を巻き起こす原因かもしれないけど、私は負けないよ! がんばるもん!

さあ、これが私達の、ちょっぴり間抜けであったかい、㈱D02Iでの奮闘の始まり。次はもっとドジをやらかすかもしれないけど、笑って許してね、みんな! てへ★

ジェイス視点

――ルドヴァイアの名に懸けて、覚悟しろ!

心の中で呟く。呪文のようでもあり、気取った自己紹介のフレーズでもある。普段は紙面で炸裂させる冷笑を、今日は出社の朝礼代わりに自分で食らってやるつもりだ。だが、本音を言えばこんなはずではなかった。私はルドヴァイアに行くはずだったのだ。あの重厚で、少し埃くさいほど知性の薫る社屋に――。

しかし運命の書類は迷子になり、印鑑が転がり、誰かのメールが「送信先:D02I」になっていた。いや、推測するまでもない。無能な人事が「たぶんこれでいいだろう」と手を抜き、社長は名刺を裏返しにして握手を交わすタイプだ。あの連中め、私の名刺はもう元のルドヴァイアの香りを失っているのだろうか。

とにかく今は目の前の現実――株式会社D02I――が相手だ。折れた矛盾は持ち替えられない。私は背筋を伸ばし、革靴で社門を踏みしめた。広告や看板にある社名のフォントは確かに奇抜で、何故か「D02I」の「0」は笑っているように見える。嗤うのは私ではない、と思いながらも、胸の中に微かな好奇心が芽生えているのを否定できなかった。破滅かもしれない、しかし――面白いかもしれない。

受付を抜けると、社内は既に独特のカオスに満ちていた。書類の山、コーヒーの輪染み、そしてなぜかコピー機から雪のように舞い落ちる白い紙片。目に入ったのは、そこにぽつんと飾られた「置物」。威厳を放つ黒い装束、だけど名札には「ドゥーくん(魔王ドゥージルド様)」とある。書類が舞っている原因を探ると、受付の置物――いや、本人が拗ねたように胸を張って、やや濡れた表情でこちらを見返す。魔王だと自称する者の不器用さが、既にこの会社の縮図を物語っている。

人事に会うと、彼女は申し訳なさそうに頭を下げるどころか、むしろ明るく私を迎えた。曰く「ルドヴァイアからの転職、お疲れ様です!」――待て。それは、まったく違う称賛だ。彼女の名刺には確かに『人事部』と書かれているが、字の最後にやたらとハートが付いている。私の胸の奥で、静かに刃のようなものが震えた。感情の刃は、まずは苛立ちで光る。だが次に、その刃は別の用途を見出す。

「貴様ら――」と、敢えて大声を出すほどの愚かさは私にはない。ただ、静かな声で要点を突く。私をルドヴァイアへ送るべき書類は何処にあるのか。社長は何故私の経歴を誤認したのか。人事のミスは単なる事務的過失か、それともこの会社の流儀なのか。答えはおおよそ想像がつく。無能の香りが強烈だ。だが、その無能が作り出す「場」は、私には鍛錬の場であり、紙面で饒舌に語る素材でもある。

よし、と決める。ここで咆哮して去るのは、私の本分には反する。私は人を嗤うためでも、見下すためでもなく、面白く、そして効率的に世界を動かすためにこの手を使う。D02I──この奇妙な工場を、「私のペース」に収めるのだ。惨状を整え、文章の調子を戻し、必要ならば人事の名刺にせめて一行の正しい説明を添えさせる。立て直す。言い聞かせるように、私は自分へ呟いた。――ルドヴァイアの名だけでは人は動かせぬ。動かすのは、行動である。

最初の任務は「現状把握」。床に散らばる紙を拾い、机の上のコーヒー輪を確認し、社員の顔と名前を照合する。そこで視界に入ったのが、若い女性の慌ただしい姿だ。彼女は書類を拾い集め、あちこちで謝罪の声を上げている。髪は少し乱れ、笑顔は申し訳なさと屈託とが混じっている。驚くべきことに、その「ドジっ子ちゃん」という標識は名札の類いではなく、彼女自身から発せられる雰囲気そのものだった。

そばには、落ち着いた顔つきの若い男――ドジーくんだろう――がいて、丁寧に彼女を手伝っている。二人のやり取りは、外から見れば小さな災害現場だが、どこか温度のある人間味がある。私はその空気を一瞥し、軽く眉を上げた。人は失敗する。私もまた、紙面でしばしば失態を演じる者たちを嗤ってきた。だが、嗤うだけでは済まない局面というものがある。可笑しい組織は改善の余地があるはずだ。私はそれを見逃さない。

――と、その時だ。彼女がふと顔を上げ、私の方へ目を向けた。まるで時間が一瞬止まったかのように。我に返る。私の足元で、コピー用紙が舞い、誰かのペンが床をコロコロと転がる。受付の魔王は得意げに鼻を鳴らし、周囲の視線が私に集中するのを感じた。ふむ。劇場の幕が上がった。

私は不愉快なほどに冷静に、そして少しだけ――演出家の満足を含ませて――声を出した。

「ここが……D02Iか」

言葉は低く、余韻を残して。会議室の空気が一瞬吸い込まれたのを聞いた。若い彼女の瞳が瞬き、周囲は静かに身を正した。私の内心で小さく、ふふ、と笑いが漏れる。始まるのだな、と。無能を嘆くのは簡単だ。だが、この場を笑いで終わらせず、秩序へと導くのが私の生業である。さて、ドジッ子ちゃん、ドジーくん、そして魔王――君たちと、どんな物語が編まれるのか。私はただ一つの約束を自分に与えた。――面白くしてやる、と。

その瞬間、室内の一角で小さな動揺と共に、あの元気な声が返ってきた。――「えへへ、すみません!」という、やや甲高い声。私は軽く目を細め、次の一手を考えながら、彼女へ手を伸ばした。外面は厳格に、内心は少しだけ期待を込めて。さあ、ここからだ。ここが、D02Iだ。