業務2日目【打倒クソゲー編】

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〜出勤〜

翌朝、出社のため通勤中のジェイスは、通勤中の道でまさかの部下と出くわす。

ドジっ子ちゃん

あーん! 遅刻遅刻ーっ!!!

ドジっ子ちゃんは食パンを咥えながら走っていた。昔によくありそうな定番かと思いきや、反対側の道からも同じように走ってくる者がいた。

ドジーくん

いけません。遅刻、遅刻中です。フランスパンが噛み千切れません

ちなみに全く遅刻の時間ではないのだが……とそんなことを思っているうちに、ジェイスはドジっ子ちゃんとドジーくんに挟み撃ちになるようにぶつかられる。
ガンッ!! という音が、通勤路の朝に似つかわしくなく響き渡った。

ドジっ子ちゃん

きゃーっ!! ドジェイスさん!? ご、ごめんなさいっ!私、ちゃんと前見てたはずなのに……いや見てなかったかも……やっぱり見てないね!

ドジーくん

おや……上司をパンでサンドイッチしてしまいました。ドジっ子ちゃん、私は右から。あなたは左から。つまりこれは四角関係の発展形かもしれません。

パンの粉がふわふわと宙を舞う。ジェイスのスーツには白い粉がつき、口元にはかすかなバゲットの香り。どうして私は、毎朝からこのような茶番劇に巻き込まれるのだろうか……と天を仰いだ瞬間。

ドゥーくん

ぬはははは!
人間界の儀式は朝から豪快だな! 私も混ざるぞ!!

道の向こうから枝豆を片手に走ってきたドゥーくんが、全力でジェイスへ突っ込んでくる気配を見せる。
──ジェイスの朝は、出社前からすでに修羅場であった。

〜会社の会議室〜

朝から散々だったが、ジェイスはなんとか出社できた。本日は9時から短い全体ミーティングをすると話したたため会議室に向かうが、そこは既に修羅場になっていた。

ドジっ子ちゃん

見て見てドジェイスさん! 私にもミンチングできたの! きゃはっ☆

ドジっ子ちゃんがハンバーグを作っていた。

ドジーくん

僕もできました。……え、これはハンバーグではないと?

ドジーくんは鶏つくねを作っていた。

ドゥーくん

ガハハハ! 我は枝豆を食ってやったぞ!!!

ドゥーくんは、通勤中なぜか持ってきた枝豆を食べていた。

ミーティング前に会議室に来てくれたのは良しとするが、それ以上の問題が起きていることに、ジェイスは朝から怒りでプルプルと震える。

ジェイス

……これは一体、どこの家庭科室だ?
いや、問うまでもないな。ここは会議室だ。

ジェイス

会・議・室!

ジェイス

お前たちは議題を煮詰める前に、ひき肉を煮詰めてどうするつもりだ!

ジェイス

ドジっ子、お前の“ミンチング”は語感からして不穏だし、ドジー、お前のは既に別の料理だ。ドゥー、お前に至っては議題を枝豆で置き換えるな!

ジェイス

はぁ……いいか。今から始めるのは調理実習ではない。朝礼だ。椅子に座れ! いや、その前にその肉塊を下げろ!!

社員A

おい、ドジー!
システム障害だ、早く来い!!!

緊急で慌しく会議室に社員Aが現れるが、ドジっ子ちゃんのハンバーグとドジーくんの鶏つくねを見ると様子が変わる。

社員A

おっ、いいな。社長に相談して本日の業務はバーベキューにしよう。
システム障害? ああ、気のせいじゃないか?

ドジーくん

やりましたねドジェイス主任! 本日の業務がバーベキューになったのは、僕たちの成果であり、実に素晴らしい実績です。

ジェイス

成果? 実績? お前は何を誇らしげに頷いているんだ、ドジー。これは業務放棄の現行犯に他ならん!

ジェイス

社員A! 貴様もだ。システム障害を“気のせい”で片づけるな!
それは幽霊じゃない、障害だ! 現実だ!

ジェイス

……はぁ。まさか会議室が精肉工場からキャンプ場に変わるとはな。
いいか、今日の議題はバーベキューじゃない。“業務改善”だ! 網を広げる前に頭を使え!!

本日9時30分より、会社の入口の前でバーベキューを開始します。
……システム障害? ああ、仕様じゃないの? 知らなーい☆

まさかの社内放送が入り、ジェイスはガクンとした。

ドジーくん

まだ時間がありますね。では、所定の場所にトランクスを干しに行きます。

ドゥーくん

我もだ! 所定の場所とはドジェイスのデスクの上なのだ!!!

ドジーくんとドゥーくんがハンガーにかけたトランクスをいくつも持ちながら会議室を出ようとしてしまう。

ジェイス

待てぇぇぇぇぇぇい!!!

ジェイス

貴様ら、どこの世界に“所定の場所=上司のデスク”なんて規定があるんだ!? 勝手に社内規則を創作するな!!!

ジェイス

今すぐそれを戻せ!
トランクスを会議室から持ち出すな! いや、そもそも会社に干すな!!!

ジェイス

……ったく。バーベキューも障害対応も放り出して、今度は洗濯干場の拡大とはな。お前らの“所定”を定め直してやるから、今すぐそこに座れ!

ドジーくん

いいえ、我々も反省し、今度はちゃんとドジェイス主任のトランクスも持ってきました。

ドジーくんはなぜか見覚えのあるトランクスをハンガーにかけた状態で抱えていた。それ、タンスにしまっていたやつのはずが、なぜか濡れている。

ドゥーくん

我がドジェイスの自宅のガラスを突き破って持ってきたのだよ!
安心せい、我は今朝着替えたドジェイスのトランクスを干してやるのだからな!

ドジーくん

ドゥーくん。それ、濡れていないので減点されますよ。

ドゥーくん

むむっ!? なんと……!
では会議室のテーブルの上にサラダ油があるから、かけるとするか……!

ドゥーくんがサラダ油に手を伸ばすが、ジェイスがガシッと手首を掴んで止める。

ジェイス

やめんかーーーーーっ!!!!

ジェイス

なぜ私の私物が社内に持ち込まれている!?
いや、それ以前に“ガラスを突き破った”だと!?
お前は空き巣か強盗か!? 朝っぱらから犯罪者ムーブ全開とは恐れ入ったわ!!!

ジェイス

そしてサラダ油!? 誰が好き好んで油ギトギトのトランクスを着るんだ!? 私をマリネにでもするつもりか!!!

ジェイス

返せッ! 今すぐ返せぇぇぇぇぇぇぇッ!!!

ドジっ子ちゃん

もーっ、みんな喧嘩しないでよーっ☆ きゃあっ!!!

ジェイスらを止めに入ろうとしたドジっ子ちゃんだが、転んでしまい手に持っていた焼く前のハンバーグがジェイスの頭に命中する。しかも、それだけでなく……。

ドゥーくん

おおっ? ドジェイスよ、己の朝脱ぎたてのトランクスを嗅ぐとは……こやつめ、我々以上にドジな存在であるぞ!

ドジーくん

ドジェイス主任はまだ自分の朝脱ぎたてのトランクスが恋しいのかもしれません。なので僕が他のトランクスをドジェイス主任のデスクの上に干してきます。

ドゥーくん

ドジーくんよ、任せた!
安心せい、ドジェイスよ。貴様のためにもかなしばりの術をかけてやったわ!
どうだ? これで身体は動かず恋しさに縋ることができているであろう!!! 口だけは動くのでコメントを聞いてやりたいところだ!!!

ジェイスの頭から生ハンバーグが垂れ、額には油の冷たさが伝わる。その上で「かなしばりの術」だと宣言され、身動きが取れない――にもかかわらず、口だけは動く状況に唖然としつつも、声は鋭く落ち着いている。

ジェイス

……ふざけるな。今、私の頭はハンバーグの試食会場か?

ジェイス

(口をきくたびに声が震えるが、怒気を込めて)
ドゥー、直ちにその術を解け。術が解けぬなら、術を唱えた証拠とともに人事部へ回収する。魔界の力を振るうのは構わんが、人間界の法と秩序は守らねばならぬぞ。

ジェイス

(ドジーに向けて)
お前は何故私の衣類を持ち出す。返せ。直ちに全ての私物を回収し、会議室と私のデスクを清掃しろ。お前たち全員でだ。掃除用具はそこにあるだろう?

ジェイス

(ドジっ子ちゃんに対して、怒りを抑えつつ冷ややかに)
そして君――転ぶのは構わん。だが人様の頭に食材を投擲するのは許されん。謝罪と後始末だ。今すぐにハンバーグを拭き取り、私のスーツは私の前で洗剤で処理するよう手配せよ。

ジェイス

(ぐっと息を吐き、間を置いて低く)
聞け。ここは学芸会場でも魔界交流サロンでもない。D02Iだ。楽しさは歓迎する。だが、業務と秩序の線引きは絶対に行う。今日の行為はすべて記録し、明日の朝までに改善案を一人一つずつ提出せよ。守れぬ者には相応の措置を取る。

ジェイス

(最後に、まだハンバーグと油が滴る額を押さえながら、薄く吐き捨てるように)
――さあ、解け。でなければ、私がこの“宴”を正式な懲戒会議に変えてやるからな。

人事

人事でーす! ジェイスくん、入社してから調子はどう?
つらかったらよちよちしよっか?

人事がやってきた。人事はドゥーくんがかけたかなしばりに気付いた。

人事

魔王よ。勇者の末裔の血としては、人間界で術を放つのは見過ごせない。

ノリはよくわからないが、人事は怒っている。これでようやくジェイスも楽になるかと思いきや……。

人事

だが今は戦うよりも優先すべきことがある。
ドゥーくん、ドジーくん。その神聖な防具をジェイスくんのデスクまで運び、干すのだ!!!

ジェイスは呆然と人事を見据え、頭からまだ油の匂いを漂わせつつ、声を低く落とす。

ジェイス

……“よちよち”だと?私は赤子ではないし、部下の下着を“神聖な防具”と呼ぶ奇妙な人事制度に加担する気もない。

ジェイスはギリ、と奥歯を噛み締め、今にも机を叩きそうになるのを堪える。

ジェイス

人事よ。君は勇者の末裔を名乗るが……ならばまずは、この会社の秩序という魔を討ってみせろ。干す場所は私のデスクではない。社員寮の物干し場だ。即刻訂正しろ。

しかしドジーくんドゥーくんは……

ドジーくん

ありがとうございます人事。では行ってきます。

ドゥーくん

ドジェイスよ、お礼はあとで受け取ってやるからな!

ジェイス

お前たちも勝手に行くな!
一歩でもデスクに近付けば、その瞬間に業務妨害で報告書を提出させる。神聖だろうが俗だろうが関係ない。私の机に下着を干すことは――

ジェイス

……………………。

ジェイス

(大きく息を吐き、冷たく言い放つ)
……人事。部下の教育は私の職責だ。貴様は勇者らしく、余計な手出しは控えろ。

バーベキュー開始まで残り5分です。
早く来ないと会社の中に閉じ込めちゃうぞ☆

人事

い、いっけなーい!!!
早くバーベキューに行かなきゃ〜!!!

ドジっ子ちゃん

私も〜!!!

話は全くまとまらず、会議室にはジェイスだけとなる。

ジェイスはその後のバーベキューも出たが、他の社員と親睦を深める余裕もなく、ただただドジっ子ちゃん、ドジーくん、ドゥーくんに振り回されるだけだった。

〜2日目の記録〜

本日の業務内容

  • 全体ミーティングを予定していたが、会議室は既に「ハンバーグ調理実習場」と化していた。
  • 社員Aが乱入し、「業務=バーベキュー」と社長に提案、即採用。
  • 社内放送により、午前中の予定はすべて破棄され、9時30分より会社入口にてバーベキューが開催された。
  • バーベキューそのものは盛況であったが、業務内容としての妥当性はゼロである。

業務課題

  • 会議室の利用目的が完全に逸脱しており、ミーティング進行が不可能。
  • システム障害発生の報告があったが、「気のせい」とされ放置された。
  • 「神聖な防具(=トランクス)」をデスク上に干す文化が一部社員に蔓延。これは明らかに業務効率を阻害している。
  • 人事が「勇者の末裔」を名乗り、部下に加担する始末。管理責任の所在が不明確。

チームビルディングについて

  • バーベキューは一応の「共同活動」として機能した。
  • ただし、肉よりも枝豆の奪い合いや下着の干し場所論争に終始し、組織的な連帯感は生まれなかった。
  • 部下たちは「親睦が深まった」と勘違いしている節があるが、実際には私の疲労だけが深まった。

チームの心理的安全性について

  • ドジっ子、ドジー、ドゥーの三名は一切萎縮することなく、むしろ暴走に拍車がかかっている。
  • 人事までもが「よちよち」などと私を幼児扱いし、職場の心理的安全性は逆方向に極まりつつある。
  • 唯一安全なのは彼らの精神であり、危険に晒されているのは私の理性である。

その他の記録

  • 出社途中でドジっ子とドジーに「遅刻遅刻」とぶつかられ、朝から災難に見舞われた。なお遅刻ではなかった。
  • 会議中に「かなしばりの術」をかけられるも、人事が介入。ただし解決どころか「防具(下着)を干せ」と助長。
  • バーベキューでは肉を焼くよりも、飛んでくる枝豆を避けることに時間を費やした。
  • 二日目にして、既に㈱D02Iの未来よりも私の寿命の方が心配になってきている。

(記録者:ジェイス・ルバート)

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